くそっ!まったく何でこんな事になっちゃったんだ?
ごく普通の高校生活だったのに・・今じゃー自分で歩く事さえままならん。それどこ
ろかトイレにも気を使わなくちゃいけないんだ。
そもそものはじめは、ウチのじいちゃん・・花押段平の一言からはじまったんだ。

「完成じゃぁーーー!!」家の中に突き抜けるような声。とても84才とは思えん
ジジイの叫び声でオレは眼をさました。
花押雅美。17才。都立高校に通う普通の学生だったオレの人生は、この第一声から
狂ってしまった。

完成じゃー・・という声は何度も聞いている。知る人ぞ知るキチガイ博士。その筋
では、医者としても有名なんだけど、ちょっと普通じゃない研究に没頭すると、
回りの事などおかまいなしのジジイなんだ。
何かを完成するたびにこの叫び声が家中に響きわたるんだけど、今までまともに
何かを完成させた事は無い。大抵は失敗に終わるんだ。

廊下をドタバタと走る音。ジジイの足音がオレの部屋のドアに近づいてくる。
いやーーな予感。最近では、両親も相手にしなくなって、孫のオレに第一番に
完成報告をしてくるんだ。

ガチャッ!

ドアが勢いよく開け放たれると、喜色満面のジジイがオレに向かって言い放った。

「雅美!ついに完成じゃ。これでワシの研究も認められるぞ」

何が認められるだ。どうせ失敗に決まっているさ。半分寝ぼけながらそんな事を
考えていたけど、はっきり言えばジジイと言えども傷つくに決まっている。
だからオレは言わない。優しい孫なんだ。

「で、今度は何が完成したの?」

オレは半分バカにしながらも聞いてみた。

「うんうん。よく聞いてくれた。今度のはすごいぞ。利用方法によっては、眼の
見えない人間にも見えるようにできるし、歩けないヤツだって自由に走らせる
事もできるんじゃ」

まーーた大ボラ吹いていやがる。そんな事出来るわけねーじゃねーか。と思いな
がらも、続きを促した。しかし、すでに自分に酔っているジジイにそんな促しなど
必要無い。自分勝手に喋りはじめた。

「今度の研究はな、他人の感覚器官の情報を自分に転移させる事のできるマシン
なんじゃよ。言ってみれば、眼の見えないヤツはだな。他人の眼を借りて見る
事だってできるし、他人の足で、走る事だってできるんじゃ。」

「へぇーー、それが本当だったらすごいじゃん。でも実用的なモンなの?」
と、オレは、疑い半分で聞いてみた。

「モンなの?とはなんじゃ。ははーん。信じとらんな?利用方だって??そりゃ
すごい利用方法があるさ。例えばじゃな。お前とワシとがレストランにいった
とするよな。そこで一番高い料理を食べたいとする。だけどお金が足りない。
どーする??そんな時にこのマシンを使えば、他人が味わっているいかなる
料理も転移させて味わえる事ができるんじゃよ。どーだ?すごいじゃろう?」

な、何が・・すごいだ。それって本当だとしてもメチャクチャせこくないか?
要するにタダ食いするだけのためにそんなモン作ったんか?このジジイは。

オレは茫然としながらも、聞いて見た。

「で、それは実験で成功したんだね??」

「いんや。まだじゃ」

何ぃ?実験もしていないのか?このジジイはまったく・・

「じゃあー成功したのか確認できなきゃ、完成なんて言えないじゃん。」

こういうと、ジジイはグッと来たのか、言葉を飲み込んだ・・しかし、押し殺す
ような声で・・

「実はな。それでお前の協力が欲しいんじゃよ。お前の友達を何人か実験に使わせて
もらいたいんじゃ」

ジジイはにこにこしながらも、ねだるような妙な仕草で懇願してきた。

「えっ、イヤだよーー。そんな・・あぶなそうじゃん。」
オレは実験体なんてイヤだから断わった。だいたいこのジジイの完成品なんてアヤシイ
もんだ。どんなキケンがあるのか分かったもんじゃない。

第一、友達だって嫌がるだろうからオレは断り続けた。しかし、ジジイはしつこかった。
「なあー、頼むよ。これが完成したとわかれば、色々な企業から引く手数多だしな
契約料の半分をお前にやってもいいから・・」

契約料?金くれるって事か?バイクも欲しいし、パソコンだって欲しい。そりゃ
金くれるなら話しは別だけど・・しかし・・オレはとまどいながらもジジイに尋ねた。

「それって・・少しはキケンなの?」

ジジイはビックリしたような顔をして、オレの眼を覗きこみ口を開いた。

「キケン??そんな実験にカワイイ孫を使うワケないじゃないか。装置っていっても
極端に小さくしたからな、ホレ、これを頭につけるだけだよ」

そういうと、ジジイは、ポケットからゴソゴソとバンドのようなものを取り出した。

ジジイの手から、それがオレの手に移る。よーくみても何の変哲もないただの
バンドだ。色は黒色で、まあーそこらへんにあるヘアバンドみたいなもの。普通のものと唯一違うのは、銀色に光る金属プレートが飾りのようについていた。

「これを頭につけるだけなの??」とオレは聞いてみた。

「そうじゃ。それだけじゃ。それは頭に入る情報のコネクターのようなものでな
身体の感覚自体を発信する装置に過ぎんのじゃ。本体は、ワシの部屋にある感覚
処理システムで制御するんじゃ。」

ジジイは陶酔したように喋り続けた。

「本来、身体の5感を脳に伝える信号をじゃな、そのコネクターが読み取って
ワシの制御マシンに送るんじゃ、そのヘアバンドは、受信機の役目もはたして
おってな。制御された信号を逆に受け取る事もできる。受け取って脳に伝える
ワケじゃな。そのために自分の感覚は邪魔になるから、5感をストップさせる
事もできるようにしてある。まあーこのバンドと、制御マシンを使えば、他人
の見たものを見、聞いたものも聞けるという寸法じゃよ。無論、発信側本体の
人間の感覚をストップしないで、受信側の人間の感覚をストップして、情報を
流し込めば、1人が見たものが何人もの人間が見れるんじゃ。」

「ふーーん。そりゃすごいや。」半信半疑ながらも、このジジイの事だ、本当に
完成したかもしれんと思うと感嘆せざるをえなかった。

「つまりじゃな、映画館で映画を見たくても、一人が見れば、後は全員が違う
場所で見れるワケじゃ。映画代金は1人分でじゃぞ!!・・」

ま、またセコイ事を。本当なら大発明なのに・・何考えてんだこいつは。

「ホレ、つけてみい。つければわかる事じゃよ」

こう促されて、オレはつけてみる事にした。
頭の髪の毛をあげて、黒いヘアバンドをつけると、ジジイは待ってましたとばか
り、自分の手元にあるリモコンのようなものを操作した。

「い、痛っ!!」オレは頭に痛みを感じて、思わずバンドに手をかけた。しかし
とれない。

「じ、じいちゃん!!これどうなっているの?とれないよ」

ジジイはほくそえみながらオレに向かって言い放つのだった。

「はは。雅美。すまんな。いや、別に命に影響はないんじゃ。頭に装着すると
頭蓋骨から脳に向けて、無数のセンサーが接続するようになっておってな。まあー
鍼治療で使う鍼よりまだ細いものじゃから痛みは一瞬じゃよ。これ以後痛みは無
い。そのかわり、ワシがセンサーを解除しない限りは、脳に達しているセンサー
がバンドをとれないようなするんじゃよ。無理にとれば・・脳を傷つけるからな
注意じゃぞ」

「そ、そんなぁー。キケンは無いっていったのにぃ」
オレは情けない声で訴えた。

「キケンなんぞないぞ。おとなしく実験させてくれればすぐにでもはずして
やるからな。まあーしばらくは協力してくれ。で、お前の友達はいつ連れて
きてくれるのかな?」

くっそー。結局このジジイの思うがままか。そう思いながらも友達思いのオレ
はジジイに言った。

「友達って・・友達を実験に使えないよぉー。連れてこなかったらどうなるの?」

「ん??そりゃー連れてくるまでそのままでいてもらうわいな。一度はずせば
お前は二度と協力してくれんしな」
意地悪じいさんだ。間違いない。コイツは最悪の状況になっちまった。
くそっ、オレの心を読んでいるようだぜ。しかたないか・・。

「わ、わかったよ。今日の夕方連れてくるよ。一応バイトだって言って連れて
くるからさぁー、協力したらバイト代金頼むぜ。それと・・オレの成功報酬も
ね」

そう言うと、ジジイは安心したのか「まかしんさい!」と言って部屋を出ていっ
た。オレは憂鬱な気分でヘアバンドをしたまま学校に出かけていった。

2.装着

浮かない気分だ。そりゃー当然さ。友達を騙すようなモンだから。でもそれをし
ないと、このバンドは外してもらえないし、もしかして大きな収入もあるかも
しれない。オレは無理して笑みを浮かべながらも友達に近づいていった。

「なぁー、割のいいバイトあるんだけど・・」

と、オレ。友人の一人であるタカシに話しかけてみた。オレはどっちかというと
幼い顔だちなんだが、タカシはわりとハンサムでスポーツも得意。だから女の子
にはモテる。ちょっと嫉妬もあってか、ターゲットにタカシを選んでしまったのは
心のなせる事だったのか?まあーそんなに深く考えたわけじゃない。

ただ、そこにいたから誘ったようなモンだった。

「えっ、バイト??いいよ。するする。今さぁーお金が足りないんだ。明後日の
土曜にデートの約束してるのに軍資金が足りないんだ。すぐくれるんだろ」

こうタカシに言われて、「あ、あぁ。うん。すぐもらえる・・と思うよ・・」自信
なげにオレは言った。
(あのジジイ・・すぐにくれるかなぁ?)

「だったら、OKさ。で・・??どんなバイト?」

「うん、そんなに難しいのじゃないんだ、ホラ今、オレが頭にしているヘッドバンド
が見えるだろ?これをつけるだけなんだよ」

「え?それだけ??バイト代って??安いの?」タカシは値踏みするようにオレ
を見ながら言った。

「いや、安くないさ、それなりに普通・・というか、出るよ(たぶん)」

「ふーーん。じゃ決まり。たぶんつけた感想とか、書くんだろ?ファッション関係
かもしれないな。オレみたいな男に似合うかって意味かもしんないし・・だから
オレに声かけたんだろ?」

こ、コイツ・・自信過剰だぜぃ。何考えてんだ?まあーいいや。勘違いしてくれるなら
その方が話しは早いし・・コイツちょっとヤナ奴だから実験にはちょうどいいかも?
こう思いながらも、被験体が1体では少ないので、オレは続けて言った。

「あのさぁー、できればもう少し何人か?2人くらいでいいんだけど、必要なんだ
誰かいないかなぁ?」

「はーん。ますますもってファッション関係だなぁー。誰にどういう風に似合うか
なんて見るワケだよな?それって、男女は関係あるのかい?」

コイツほんとに自信過剰だなぁー。と思いながらも、まあー話しが早いからそのままに
してオレは言った。

「あ、実は、オレも見てのとおりバイトしてるんだ。だから全部で被験体・・じゃな
かった・・バイトするのは、4人なんだ。あと2人・・男でも女でもいいらしいよ」

「ふーーん・・そうか。じゃあーあと2人は女の子にしよう!ちょうど男と女の半々
になるしな」

そう言うと、タカシは教室を出ていった。しばらくしてにこにこしながら帰って
くると・・

「オイ、連れてきたぜ。モデルさん2名のご招待〜・・。」

冗談まじりにこう言うと、タカシの後ろから女の子が二人入ってきた。

「まさみ君?バイトってまさみ君のトコなのぉ?」

声かけてきたのは柳原由美子だった。高校のアイドルとも言っていい。163センチ
の身長にセミロングの髪、ちょっと大人っぽい顔だちだけど、チェックのミニスカート
にルーズソックスがよく似合う。何より胸が大きいんだ。高校生にしては・・だけど。

オレは密かに憧れていたからドギマギしてしまった。

「えっ、あの・・うん、由美子さん。そう、ウチでバイトしてもらえばいいんだ」

実験とは言えない・・憧れの人に実験なんて・・という罪悪感はあったけど、今更
どうしようもない。
すると、その蔭からちょっと小柄な女の子が出てきた。

「よろしくお願いしまーす」

か、カワワイ声・・。なんだ?こんな子・・この学校にいたかぁ??

ロングヘアで顔は幼顔。グラマーじゃないけど、身体の線が細くて女の子って
感じだ。
すかさずタカシが言った。

「あ、この子なぁー、先月転校してきたんだ。立原真美っていってさぁー。カワイイ
だろ?由美子に声かけてもらったんだ。」

由美子だってぇーー、コイツ呼び捨てにするとは・・オレの憧れの人を・・でも
立原真美は確かにカワイイ。そんなオレの気持ちを無視してタカシは言い放った。

「あのさぁー、オレはハンサム。お前はどっちかっていうと幼顔だろ?ま、どっちも
美形にゃ違いない。だからタイプは違うけど、オレたちにあわせて、女の子も美形
じゃないとな。ファションショーは勤まらないからな」

自身過剰もここまで来れば言う事も無い。でもしっかりファションショーだと思っている。
まあ〜いいや。とにかく4人集まったから・・そう思うと、オレは話しはじめた。

「今日の帰りにウチによっていって、これと同じヘアバンドをしてもらうバイト
だからさ。4人で集まって行こうよ。よろしくね。」

そう言うと、オレは一旦その場を引き上げた。なんとなーーく。後ろめたいというか
そんな気がしたからだ。
その日の午後、授業が終了し、学校の門の前に集まったオレたち4人は、ジジイの
待つ家へと向かっていった。

4人はオレの家に到着し、応接間でジジイを待っていた。
雰囲気づくりをしようとしたのか、タカシが口をあけた。

「しっかし、まさみの家って、すげぇよな。ま、代々が医者なんだから当然だけど
な。」

そう、ウチはわりと裕福なのだ。応接間には、暖炉もあり、ちょっとした洋風館
になっている。由美子は、わりとリラックスしてタカシとおしゃべりしているが
真美はおちつかなげであった。
ロングの髪の毛をいじりまわしている仕草がとても可愛らしい。
たぶん、転校したばかりで初めて訪れる家だからなぁ。緊張しているのかも?

そう思った時、ドアが開け放たれ、ジジイが入ってきた。

「おお、よーく来てくれたのぉー。ん?バイト代か?今払おうか。何、すぐ終わる
からのぉ。女の子も来てくれたんじゃな。よしよし、この方がいい。そう思って
女の子用のものも用意しておいたんじゃ」

そう言うと、ジジイは、女の子用のカチューシャを取り出した。

こ、こんなモノまで用意してあったのか?抜け目無いジジイだまったく。
ま、バイト代がすぐに払ってくれるのならば文句はない。

友人たち3人にお金の入った封筒がジジイの手から手渡された。タカシは早速
開いてみている。何て節操の無いヤツだ。

「おっ、すっげー。万札が入ってるぜ。こりゃーわりのいいバイトだなぁ」

単純に喜んでいるタカシ・・。まあー今から何か始まるかわからないからいいよ
うなモンさ。
その考えを止めるようにジジイが叫ぶ。

「よしっ、じゃー早速つけてもらおうか、男の子は、このまさみと同じヘアバンド
をな。女の子はこのカチューシャじゃ」

ジジイは両手に持ったそれぞれのセンサーを3人に手渡した。

3人の男女は、何の疑いもなくそれを頭につけると・・まさみが経験した痛みと
同じものを感じたらしい。

「あ、いてっ!!」「痛い!」と声が交錯する。

「な、なんだよー。これ。痛いヘアバンドなんて聞いてないぜ!」タカシが怒鳴る。
そう言って、タカシは突然真顔になった。元々頭の良いヤツだから事情を察知
したらしい・・。

「まーさーみぃーー、騙したな?お前のじいさんって、そう言えば、実験好きの
キチガイジジイだったよなー」

掴みかからんばかりに、タカシはオレに向かって言った。

「ご、ゴメン。オレだって騙されたんだ!でなきゃ、これを外してくれないって
言うから・・」

「はずせない??の?」意外そうに由美子が聞く。
すると間を割るようにジジイが言った。

「ふん。キチガイジジイで悪かったのぉ。お金をあれだけ出したんじゃ文句は
あるまい。ちょっとの間、実験に協力するだけでいいんじゃからな。終わったら
外してあげるよ」

ジジイは、こう言って、タカシたちに説明をはじめた。オレが聞いたように
自分では外せない事、感覚器官を入れ替えできる事・・などなど。

意外だったのは、タカシの反応だった。

「へぇー!そりゃーおもしれぇや。な、まさみのジイちゃん。早速やってみようぜ
ホントだったらたいしたモンだぜ」

ジジイはこう聞くといつものパターンで言う。
「ホントとはなんじゃ。ほんとになるんじゃからな。よしよし、タカシ君は適応が
早いようじゃな。それなら安心。では、早速、ワシの研究室で実験じゃ」

ジジイはそう言うと、オレたちを自分の部屋に促した。女の子2人はまだ事情が
飲み込めていないらしく、茫然としながらオレたちについてきた。


3.事故

ジジイの部屋はモノが散らかり雑然としていた。そのド真ん中に大きなコンピューター
が配置してある。一体いつ、こんなデカイコンピューターを入れたんだろ?
畳2畳はあると思われるデカイコンピューターの回りにも色々な機器が作動していた。
アンテナのようなものも見える、これが発信装置かな?なんて事を考えていると
ジジイは早速講釈をはじめた。

「うぉっほん。うん、ではこれから実験をはじめる。用意はいいな?まず視覚を
転移してみるぞ、基準は、タカシの視覚を女の子たちに・・まさみとタカシは・・
そうじゃな??真美ちゃんか?そう、真美ちゃんの視覚を受け取ってもらうか」

こう言うと、ジジイはコンソールからキーを叩きだし、いくつかのマシン操作を
行った。
途端・・・クラっ・・視点が揺らぐ、おかしい、バランス感覚が無くなったようだ。
モノもぼやけて見えるし・・すると唐突にモノが見えるようになった。

「あれ??何だか見ている景色が??違うぞ」

こう口火をきったのはタカシ。

「キャーー!」叫んだのは、由美子だった。「わ、私がいるぅーー。」

そう、由美子は、タカシが見ている風景を、オレたちは、真美が見ている風景を
見ていたんだ。

しばらくボーっとしていたオレたち4人だったが、実験が成功したと分かるのに
手間どらなかった。
やがて落ち着いて話しはじめていた。

「ふーーん、男の子の視点って・・こんなに高いところから見てるのねぇー」
これは由美子。真美はとまどいながらも少しずつ、この事実を受け入れはじめて
いるようだ。何かいいたそうで、口が聞けないって感じ。

オレはまた違っていた。女の子の視点って、低いと思った。目の前にいるタカシ
がやたら背が高く、たくましく見えるのだ。それにオレはあんまり眼がよくない
んだけど、真美の視力は抜群らしく、クッキリはっきりと見える。見えている色
だって心なしか明瞭に見えるんだ。

「視覚って・・自分の視覚だけしか知らなかったからなんだけど、個人個人で
違うんだなぁー。」
オレは感心しながら言ってみた。

その声をかき消すようにタカシが興奮して話しはじめた。

「じいさん。すごいよ!これ。これってさぁー。真美ちゃんが女子更衣室に
入ったら、そのまんまが見えるって事だよなー。大発明だよ、こりゃ」

由美子が「バカ!エッチ!」と叫ぶ。真美ちゃんはうつむいて恥ずかしそうにしていた。
それにしてもタカシのやつ・・頭はいいが、発想がジジイとおんなじだ。でなきゃー
こんな事に順応できないよあー。

その後もタカシはジジイを誉めあげた。それを聞いてジジイは悦に入り、興奮して
満足そうに「そうじゃろ、そうじゃろ」とくり返し、自分の理論を説明しはじめて
いた。
ワケのわからない専門用語が飛びだして、ジジイは自分の言葉に更に興奮度を
増していった。
やがて口角泡飛ばして怒鳴るように説明しはじめると・・ハタ・・と話しがとまった。

ジジイの顔がみるみる青覚めていく。フン、興奮しすぎるからだ・・とオレは
思っていた。
しかし、事態はもっとひどい事になっていたようだった。
ジジイは、そのまま、ブッ倒れてしまったのだ。それもマシンの上に。コンソール
の上にだった。
一瞬!火花が飛び散り、ジジイは倒れ、制御マシンは暴走をはじめた。それと同時
にオレの感覚がどんどん無くなっていった。眼も見えず、口もきけず、味も無く
肌の感覚さえない。5感は失われ、オレは気が遠くなっていった。ジジイとともに
オレたちも倒れたのだ。

4.入れ代わり

気が付くと、オレは、病院のベッドに寝ていたのだ。眼をさまし、あたりを見回すと
左隣にタカシが、正面には、由美子が、その隣にはジジイが寝ていた。

隣のタカシが、モソモソっと起きはじめた。途端に回りを見渡してみる。その瞬間
オレの眼はおかしくなっちまった。
何と、ものがぼやけて見えるのだ・・いや、ぼやけているのではない。二重になって
見えている。アタマがクラクラしそうだ。同じ部屋なんだけど風景・・見る角度の
違った2つの視点が重なりあっている。

とまどいながら、あたりをキョロキョロ落ち着きなく見渡すオレ・・。タカシも
とまどっているようだ。そのうち正面の由美子が起きた。途端に今度は3重になって
風景が重なる。

「なーにー、これ!!どこがどうなってるのぉ?」と由美子。

そりゃーなぁ。いきなり目覚めてこの景色じゃ驚くどころか・・狂ったと思うよな。
でも最初に起きたオレだけは、事態を飲み込んでいた。
アタマのヘッドバンドはそのまま・・女の子のカチューシャもそのままだ。という
事は、全員の視覚がそれぞれに受発信している状態だから、それぞれの視点で
重なって見えちゃうわけだ。そう思って、オレはいきなりジジイにアタマにきた。

な、何が眼の見えなくなった人でも見えるだ!これじゃー見え過ぎて、見えないのと
おんなじじゃーねーか。

「オイ。じーちゃん!起きろ!」とオレはこの事態を解決すべく、ジジイに声をかけ
た・・つもりだった。
ところがその声は、オレの右隣のベッドから聞こえてきたじゃないか?オレが喋って
いるのは間違いないのに・・声は別の方向から・・て・・事は??

おそるおそる首だけ回して隣を見る・・げぇーー!!

お、オレが寝ている!じゃーこのオレは・・誰だ??
と、その時、自分の髪が見えた。長い、とても長い髪・・という事は、起きているのは
オレなんだが??うーーんややこしい!ひょっとして真美ちゃんか?
起き上がろうとして手に力を入れるが力が入らない。必至で何とか上半身だけ起こして
みたものの、腕にはまったく感覚が無い。いや、布団の触感はあるから、感覚は
あるんだけど、動かないんだ。

うーーー。こりゃタイヘンだ。こーなったら、他人・・じゃない。別の場所にいるオレ
の声であろーがなかろーが関係ない!とにかくジジイをおこさなくっちゃ。

「おい、じーちゃん!ジジイ!!起きてくれぇーー」と叫んだ。でも、オレの口はぜ
んぜん動いていない。何と、それを叫んだのは、正面にいる由美子だった。

「何?今叫んだのはあたし??」と、女言葉だが、男の声・・タカシだ。

「オレじゃーねーよ。なんだ、きっもちわりい声〜」と、寝ているまんまのオレ
(本体)が叫ぶ。

「いったいどうなってんのよーー」と、今度は、オレの口、すなわち真美ちゃんの口
から勝手に声が出る。

「今のは??真美ちゃん??」とオレがタカシの声で聞く?

「違うわ。あたしよ。由美子!」
これは由美子自身の声で言った。

「あーーーややこしい。どーなってんだ!!」とどうもタカシらしいがオレ(真美)
の口から言葉が出てくる。

ベッドを挟んで大騒ぎだ。完全にパニくっている俺達を尻目にゴソゴソと由美子の
隣のベッドが動く。ジジイだ!!

「おい、じーさん!起きてくれぇー」ジジイを呼ぶ最後の叫びは、タカシだった。
これはタカシ自身の声で。

「うっるさいのぉーー。いったいどーしたんじゃ??」ジジイがやっと起きた。

途端に3人が四方八方から質問と苦情のない交ぜになった言葉の交換。オカマのよ
うな声の時もあれば、入れ代わり立ち代わり・・。ジジイは眼を丸くして言った。

「わ、わかった。分かったから静かにせい!!うーーむ。思い出した。ワシは倒れて
しまったんじゃな?話しを聞くところ、いまだにワシのマシンは、お前たちの感覚
を制御しつづけているようじゃなぁ?それも入れ代わりたちかわりで、固定されて
いないようじゃ。困ったのぉ」

何が困っただ。こんな事態にしたのも原因もみんなオメーじゃねーかっ!怒り爆発
寸前で、病室のドアがガチャッとあいた。

入ってきたのは・・オヤジだった。花押新一郎。医者だ。という事は、ここはオレ
のオヤジの病院かぁ。なんとなくホッとした。他の病院だったら、恥ずかしくて
たまらん。金欲しさにあわれな姿になっちゃったから。

「とうさん、一体何があったんですか?全員があなたの部屋で昏倒していたんです
よ」と、オヤジ。

「うーん。まあー細かい事を言うな。だいたい様子はつかめたからな。今説明して
やる」と、ジジイ。

エラそーに言うけど、ジジイにはオヤジもアタマが上がらない。それなりに医学会
では、有名な人物だからだ。オヤジは婿だし・・。

「いや・・その・・な。ちょっとした実験をしておったんじゃ。それが事故があって
なぁー。これこのとおりじゃ」と、ジジイ。

何の説明だか・・いかにオヤジが京都大学を出た秀才でも分かるわきゃない。
ジジイは、オヤジの眼を気にしながらも説明をはじめた。

「ま、こういう実験でな、マシンが壊れて、それぞれの感覚が交差しているんじゃ
よ」とジジイがだいたいの説明を終わる。

「ふぅー。まったくもう。何がなんだか。とにかくですね。元に戻す事ですね。
マシンを壊せばいいのでしょう。停止すれば感覚は元にもどるはず」

「いや、それはできん。一旦接続したらちゃんと終了してやらんと脳に影響する
かもしれん」とジジイ。

「それじゃ、どうやって元に??」とオヤジ。

オレたちは、オヤジを見たり、ジジイを見たりしながらやりとりを聞いていた。
テニスの試合の観客のように・・。

「元に戻すためには・・じゃな。今はマシンの影響下にある。これはわかるな?
要は、その影響が無くなって安定すればいいのじゃよ。そうなればセンサーを外
しても大丈夫なんじゃ」と、ジジイが言う。

「と、言うと?具体的には?」オヤジが促す。

「まあー今の状態は、各人それぞれの感覚が交差しているからな、そういう時には
ずせば、影響が脳に出るかもしれんのじゃ、だから各人の感覚がそれぞれに固定さ
れてだな、普通に動き、感じる事ができれば、センサーのスイッチを切ればいいの
じゃ、ホレ、ヘアバンドとカチューシャの正面についているボタンじゃよ」
ジジイはこう言って、カチューシャとバンドの飾りの部分を示したのだ。

「ちょっとまってよ!!そんなに簡単に外せたのかよ!脳に影響が出るとか何とか
言っちゃって、ウソついたな〜!!」真美の口から、オレが言った。

「今のは??まさみか?」とオヤジ。
「そうだよ。」と今度はタカシの声で言う。

オヤジはやってられん・・という風にアタマをフリフリ・・。

「相当重傷のようだな。で、おとうさん、いつまでこの状態なわけですか?」

「いや、今はマシンが彼らの感覚を固定できないだけなんじゃ。だから感覚が
あっちいったりこっちいったりしているワケじゃな。しかし、だんだんと落ち着いて
くるから、それぞれの感覚は固定されていくじゃろう」

「それって元に戻るって事?」と由美子が言う。

「もちろんじゃよ。こういう時の安全対策でな、一定時間経過が経過すると、自動的
に感覚を戻すようにプログラムしてあるんじゃ。とは言っても、元の感覚に戻るまで
はしばらくはかかるがな」

「まあー少なくとも、正常に見えて今のように重なる事はないじゃろう。それとな
すでに感覚固定ははじまっているはずじゃ。どこか感覚器官で、まともなところは
ないかな?」

「そー言えば・・声だけはちゃんと聞こえる・・と言っても、オレの場合は真美ちゃ
んの耳で聞いているんだけど・・真美ちゃん??あっ」

「真美ちゃん、真美ちゃんはどーしたの?ねぇ、とうさん?」とオレ。
今度は、真美の声で尋ねたので、オヤジはちょっと引いてしまった。ムスコのはずが
娘の声で尋ねられたのだからとまどうのも無理はない。

「ん?いやな、まさみの場合は・・じゃない。真美ちゃんの意識だな?正確にはまさみ
の肉体は・・だが。意識不明の状態なんだ。とは言っても身体は正常に動いているんだ
から心配はない。ただショックが大きかったのか、眠ったままなんだよ」と、オヤジ。

「どれくらいで固定するの?」とタカシが由美子の声で言う。

「まあー視覚はすぐじゃろ。手足とかはもうしばらくかかるじゃろな」

とにかく、この混沌状態から少しは良くなるまでという事で全員入院となってしまった。
そのうちに、オレと由美子(正確には由美子と真美ちゃんの身体)は、女子用病棟
へと移っていった。その日の夕方には、他の残像が次第に薄くなり、視覚は固定。
何とかまともに見えるようになった。ただし・・オレの場合は真美ちゃんの視覚だが。

5.感覚固定

実は、女子用病棟という事で、オレは密かにほくそえんだ。だってさぁー。回りは
女の子ばっかだぜー・・のはずだった。

見事に期待を裏切ってくれたのは、ベッドに寝ているオバサンの面々・・。悲しいか
な、唯一の期待の星である由美子は隣の病室に入ってしまった。これはきっと・・
オヤジの差し金に違いない!

真美の格好はしていてもオレは雅美なんだ。それを知った上で、こんな病室に・・。
なんだかだんだんとハラがたってきた。

2.3日もすると、腕に力が入るようになってきた。足にも入るようになったが
突然、感覚が切り替わったりする。何しろ、歩いていても、突然止まったり。突然
歩きだしたりするんだ。何より問題なのは・・トイレだった。
あの部分・・にはいまだに感覚が無い。だから尿意があってもわからない。それどこ
ろか、時々これが入れ代わるんだ。

自分はしたくなくても、その感覚は、タカシに伝わったりする。だからタカシは
トイレに行くワケだ。ところが・・実際にはタカシはしたくないワケで、実際には
オレがしたい・・じゃなくって、真美の肉体がしたいわけで・・ええーい。ややこし
い!
要するに、タカシが用を足そうと、下半身に力を入れれば、突然オレの股間から
黄色い液体が噴出するワケだ。
な、なんてこった!このトシになって「お漏らし」だぜー。それも女の子として
やっちゃうから、恥ずかしいなんてもんじゃない。

最初、休憩室で由美子と談話してたら、突然股間がビショビショになっちゃって・・
由美子が大笑いしたんだ。憧れの君に・・。もっとも、由美子も同じ事があったらしく
その後、同じ事があっても笑わなくなってしまった。

結局、オレは、自分で自分の始末さえもつけられず、泣く泣くショーツをはぎとり
はき替えたんだが・・看護婦が、やってきてこう言ったんだ。

「どうも下の方がダメなようねぇー。汚されるとたいへんだから・・ねぇー導尿と
オムツと・・どっちにする?」

うっ、オムツぅ?ダメダメ。そんなの若い女の子・・じゃなかった。オレのプライド
が許さん。という事で導尿する事にしたのはいいが、最初に管を差し込まれる時点
で、あんまり痛くって、とうとうオムツに妥協してしまった。情けないオレ。
プライドなんかボロボロだよぉー。

それと、入院して、4日目だったかな?寝ているといきなり、胸のあたりを何か
にまさぐられるような感覚。な、何だ?誰かがオレの胸をもみしだいている。
ガバッと起きたが誰もいない。ハテ??またもまれる感覚・・。胸に何か入った
のだろうか?と明けて確かめてみる。柔らかく白い乳房を恥ずかしい気持ちで眺めて
みたが、何もない。
後で分かった事だが、この時、タカシが由美子と会っていたらしい。あっちはぜんぜん
何も感じなかったので、途中で行為をやめてしまったらしいが・・うぇっ。オレは
タカシに乳をもまれてしまったのか?と思うと、自己嫌悪におちいってしまった。

まあーそういうワケで、オレの人生は狂ってしまったワケだ。

そんなこんなするうちに、やがて6日目を迎えようとしていた。朝起きてみると
感覚がスッキリしている。ひょっとして??と思ったオレは、起きて歩いてみた。

「歩けるっ」と喜んで飛び上がった。触感も正常だし、尿意も感じる。試しに
オムツはずして用を足してみたが、まともに出て来る。
それにしても、女のトイレってのは、いちいちパンツ脱いでしなくちゃいけないし
コントロールのしかたはわからんし、ティシュでふかなくちゃいけないし・・面倒
この上ない。何より一番恥ずかしいのは、自分が女性になってしまった事の方だ。

そう。喜んだのも束の間・・まだ何にも解決していないのだ。オレは、真美ちゃん
のままなんだから。

6.退院

その日のうちに、タカシと由美子と出会ってみたが、どちらも正常になっていた。

それぞれ自分のセンサーは外していた。

彼らは自分の感覚を自分のものとして受け取っているようだ。オレの本体。肉体は
雅美で、中にいるのは真美ちゃんだが、こちらの方はぜんぜん目を覚ます気配が無い。
どうやら、意識の無い肉体からデータが来ないためか、真美ちゃんの感覚をオレのと
入れ替えてしまったようだった。

さすがのオレもこれにはまいった。ジジイにねじ込んだのは言うまでもない。

「ジイちゃん!!いったいどうなってんだよっ!元に戻らないじゃねーか」

ジジイは考え込みながら言った

「ふーーむ。こりゃ真美ちゃんの意識が戻るまでは無理じゃな。わしの作ったプログ
ラムは、意識の無いデータは扱わんからのぉ。真美ちゃんが気が付けば、コンピュー
ターもデータを受け取れるようなるから、そしたら元に戻るじゃろうな。それまでは
そのセンサーはそのままじゃな。ま、防水にもなっておるしの、髪もそのまま洗える
から問題ないじゃろ」

問題大アリだっ!!このクソジジイ。と叫びたかったが、真美ちゃんが気がつかない
以上はしかたない。気が付けば元に戻れるという事を信じるしかないのだ。
一応、真美ちゃんとしてだが、まともに動けるし、学校にも行かなくちゃならないの
で退院だけはする事にした。真美ちゃんの意識が戻るまでの我慢だ。

しかし・・オレはどっちの家に帰ればいいんだ?自分の家か、それとも真美ちゃん
の家なのか??悩んだが、とりあえず、オレは真美ちゃんの身体に入っているような
モンだけど、花押の長男だから、花押の自宅に帰った。着るものは、真美ちゃんの家
から届けてもらったのだ。

金曜日の朝、オレは母親のドレッサーの前で立ちすくんでいた。
だってそうだろう、今まで女の子の裸なんか雑誌でしか見た事が無いんだ。それが
今、目の前にある。いくらでも手の届くところにあるのに、それは自分なんだ。

裸で立ちすくんでいたのにはほかにも原因があった。今までは、パジャマで過ごして
きたし、下着っていったってせいぜいがショーツだけだったから男の頃のパンツの
きつい程度のものだった。とは言っても、股間にあるべきものが無いから、ピッチリ
と優しく包む感じで男の頃のよりも妙に感触がいいんだけどね。

何よりも男の時には絶対に使わない下着、ブラジャーにとまどっていたんだ。恥ず
かしいやら何をどうつけたらいいやら??これほど困惑した事はないくらい。
で、しばらく鏡の前でボーーっとしていたワケ。
そのうちに母親が入ってきて

「まさみちゃん??あらあら、何裸でいるの?早く着ないと風邪ひくわよ」

うーー、オレのとまどいがワカランのかこの母親は?

「だってかあさん・・何をどうつけていいか・・」オレは恥ずかしそうにか細い
声で言った。

「あー、そうねぇー。そう言えば初めてなのよねぇ」

は、はじめてに決まってるじゃないかっ!!考えなくてもわかりそうなもんだ。
そんなオレにかまわず、母親はブラジャーのいくつかを手にして言った。

「うーーん。学校へ行くんだから、どれでもいいけど、ホラ、この白のレースな
んか似合うわよ。つけ方は教えてあげます。さ、こっちにきなさいな」

え゛ーーー。あんなのつけるのかぁ?恥ずかしいよぉ。
オレはモジモジしながらもいつまでも裸でいるワケにもいかず、母親の近くによった。

「さ、この肩ひもを腕に通してね。前かがみになって、うん。そうそう。それから
おっぱいにあわせて、そうそう、後ろのホックをとめて余った部分は、カップに入
れるのよ。」

そう母親に指導されながら、当然悪戦苦闘したのは、ホックの後ろをとめる時だった。
どこにひっかければいいんだ?女ってのは後ろにも目がついているものらしい。
やっとの思いでとめて、わきの方に余った乳房をカップに入れる。かがみを見ると
下着姿の美少女がいる。白のレースが可愛らしく、豊満とは言えないまでも形の
良い乳房がツンと出ている。
そっと手を乳房にやると、弾力のある柔らかさが手に残る。これが今の自分だとは信じ
られない気持ちだった。ポーっとしているオレに母親が言った。

「さて、次はこれね」と言って、白い柔らかな布を手渡した。
手にとったオレは・・

「こ。これって・・」

「そうスリップも着なくちゃね」と母親が言う。恥ずかしいけど、アタマから一気
にかぶって着てしまった。ちょうどヒップの下までくる短いものだった。お腹や太
股の上に優しい感じの布の感触がする。何だかくすぐられているような妙な気持ち
だった。

そんな事におかまいなしに母親は次次と、衣類を取り出した。結局は制服を着る
事になるのだが、男の学生服じゃない。女子用のチェックのスカートに白いブラウ
ス、緑色のカーディガンだった。
何だか、かあさんは楽しんでいるみたいに見えるのは気のせいだろうか?

スカートなんて初めてだ(当たり前だ!)。それもひざ上の短いヤツ。ソックスをは
いて見た目は完全な女子高校生になってしまった自分が恥ずかしくてたまらない。
それに、こんなにスカートが短かったら・・スリップが見えてしまいそうで気になっ
た。
「あ、たいへん。こんな時間よ。早く学校に行きなさいな」

オレはあわてて、朝食を食べ、「いってきまーす」と黄色い声を一声発して自宅を
後にした。

学校は、駅から電車で通っている。ちょうど3駅目が学校のある駅だった。
駅の改札まで来ると、後ろからいきなり声がした。

「おーい。待ってたんだぜ!」

後ろを振替えると、タカシがいた。その後ろには由美子もいた。あれ?由美子は
確か・・違う駅から通っているはずだが??
その疑問を見越していたのか、タカシが言った。

「由美子にはさあー、新米女の案内役のために一緒にきてもらったんだよ。その
方が、お前も都合がいいだろ?事情を知っているヤツが近くにいりゃー色々聞け
るしな」

「聞けるって・・何が?」とオレは尋ねた。

「そりゃー、誰と誰が親しくて、真美ちゃんのクセとか、色々さ。女子更衣室の
ロッカーの場所だってわかんないだろ?」

ああ、そうか。そう言えば、そうだ。こいつ案外いいヤツなんだなぁ。

「すいません。よろしくお願いします」とオレは由美子に言った。

「何、他人行儀な事いってるのよぉ。ま、おねーさんにまかしてね」

「お、おねーさん???」

「そうよ。当たり前じゃない。あなた、女としては、生後7日みたいなものでしょ。
私の方がそういう意味ではずーーっと年上なんだから」
と、由美子は妹ができたのを喜ぶように言った。

まあーーいいか。確かにそのとおりだし、由美子には色々と教えてもらわなくちゃい
けないから、そういう事にしておこう。

こう思い直して、オレたち3人は改札を通って、駅の中に入っていった。
男の頃と変わりなく、オレは階段を駆け上がっていった。タカシと由美子はその後ろ
からついてくる。階段を上りきったところで、電車が入って来て、電車のおこす突風
が舞い上がる。

その時、オレの短いスカートが少しだけ「ふわり」と舞い上がった。

「わっわっ・・」とオレは急いでスカートを押さえる。顔を真っ赤にして、回りを
見ると、不思議そうな顔をした何人かの電車客がオレを見ていた。
「ホッ、どうやら見られなかったらしい」とオレはひとりごちた。

その時、タカシと由美子が上がってきた。

「しっかり見えちゃったモンねー。!」タカシが気色満面で言う。

「ば、バカやろう!」と顔を真っ赤にして、オレはタカシを怒鳴りつけた。
そこに由美子がすかさず言う。

「あなたバッカねぇー、何でブルマーとかはいてないの??下着がまる見えじゃない」

「えっ、ブルマー・。って??」

「こんな短いスカートはくのに下着のままのはずないでしょ。大抵は、体操着を着たり
するものよ」

「し、知らなかった」と、オレ。

「まあーいいけど。せいぜい痴漢に襲われないようにしないさいな。ただでさえ真美
って、痴漢にねらわれやすいおとなしそうな顔しているのに、そんな下着丸出しのま
まじゃ、襲ってくれって言っているようなものよぉ。それからね。もうちょっと女ら
しい言葉じゃないと、真美がかわいそうよ。後で元に戻った時に、攻められるから」

「攻められるって・・あ、そうか。真美ちゃんにとっては、オレの行動って、即
自分にはねかえってくるもんな。そうか・・でも恥ずかしいよぉ」と、オレ。

「恥ずかしいって・・あなた今はどこから見ても女の子なんだから、男の子の言葉
使う方が、よっぽど恥ずかしいのよ。さっきなんかでも、わっわっ・・じゃなくって
きゃーーー、とか言うものよ、それにバカ野郎とか怒鳴ったりしないの。わかる??」

「わ、わかった。うん」とオレ。

「違うでしょっ!!」と由美子。

「えっ、あぁ・・わ、わかった・・わ」声が消え入りそうにオレは言った。

「そうそう、その調子でね。じゃ行きましょう」と由美子はさっさと電車に乗り込ん
だ。

電車は混んでいた。ほとんど通勤時間だから、ラッシュもいいとこだ。約15分は
この電車でぎゅう詰めの状態なワケだ。
オレとタカシと由美子の3人は、入り口に近いところに陣取った。窓に近いところに
由美子、オレがいた。目の前にはタカシがいる。
電車が走り出す。
ガタン!と揺れると、オレはタカシによりかかった。今は非力でしかも背も低いオレ
だから、タカシによりかかるようになってしまうのも当然と言えば当然だった。
揺れと同時に、突き出したオレの胸がタカシの腹のあたりに当たる。逞しいタカシの
お腹に、オレの乳房が密着し、形を変えた。その途端、何だか、せつない気持ちに
なってくる。乳首のあたりがくすぐったいようなかゆいような、妙に刺激された
感じであった。

そっと、タカシの顔を見て見た。何しろ身長差が大きいから、オレは上をあがめる
ように顔をあげる。タカシは、由美子の方を見て話しをしていた。
(結構たくましいな、タカシのヤツ・・)

えっ?今、何考えた??逞しい?うーー。何だかへんな気持ちだ。オレはホモじゃ
ないのにぃー。

そう思って顔を下げ、うつむき加減にしてカバンを胸の前にやり、タカシに胸が
当たらないようにガードした。
電車はすべり込むように次の駅についたが、降りる人はほとんど無い。そのかわりに
乗る人はいて、前よりもまだぎゅう詰め状態になったばかりか、押し流されてタカシ
たちから離れてしまった。

電車はまたゆっくりと次の駅へと走りだした。

発車してほんの1分ほど経過した時だったろうか?足の太股あたりに妙な感じが
する。
あれ??なんか当たっているなぁー・・と思ったのが最初だった。そのうちに
そのあたっているものは、スカートを押し上げていった。

お、オイ。これじゃぁ、下着が見えちゃうよぉー。と思ったが、スカートを直そう
にも、両手はカバンを持って胸をガードしている。もう降ろすにも降ろせない状態
なのだ。

そのうちに、ナマ暖かい・・肌の感触だ。オレのヒップに当たるものがある。
薄いショーツの布地越しに人肌の体温を感じる。誰かの手らしい・・。
そこで気が付いた。ま、まさか??痴漢??

いや、まてよ。ただ手があたっただけかもしれない。痴漢と決めつければその人
がそうじゃなかったら??第一、誰がやっているのかもわからないんだ。
恥ずかしい・・そう思うと、訴えるに訴えられず、オレはうつむいたまま黙って
耐えていた。
それに気をよくしたのか、手はヒップのあらゆるところを撫で回してきた。
間違いない、痴漢だ!でも・・誰??回りを見渡すと平然とした顔をみんなして
いる。
それに・・こ、コワイ。わけのワカラナイ恐怖感と、痴漢にいたずらされている
嫌悪感が襲ってきた。
痴漢される女の気持ちってこんなだったのか??と初めての体験に驚かされながら
恐怖と嫌悪感に耐えていた。

ほとんどスカートはまくれあがり、ショーツはむき出しの状態だった。痴漢は益々
冗長して、ショーツの中にも手を入れようとしている。胸だけは、カバンでガード
しているからいいようなものだったが・・純真な真美ちゃんの大切なところをけが
されている・・いや、今汚されているのはオレなんだ!

もう耐えられないっ・・と思った時、陽気な声で、「すいませーーん」と向こうから
タカシが言って、オレの身体を強引にタカシたちの方に引っ張っていった。
それと同時に、オレは痴漢から開放されて、まくれあがったスカートを直しながら
タカシの方へと引き寄せられた。

「バッカだなあー、何で一人でいるんだよ。オレたちといれば安全なのに」
とタカシが言う。

「だって、だって・・」オレは言葉にならずに急に泣き出した。痴漢から開放
された安心感が緊張を一気に解き放った為だったのか?女になって涙腺がゆるんで
いたからなのかわからないが、タカシの胸の中で泣き出したのだ。

さすがのタカシもとまどいを見せて、由美子に「どうしたらいいんだ?」という顔
をしていた。
由美子は何でもなかったように「ね、女の気持ち・・わかったでしょ。痴漢って
卑劣だって事も・・あなた体験できない体験したんだから、そう思ってわりきりな
さいな」と言った。

オレは、うんうん。と言ってうなずきながら、学校のある駅まで泣きどうしだった。

満員電車から開放されて、吐き出されるようにオレたち3人は駅を出て、学校へと
向かっていった。校門に近づく頃には、やっと事態を整理でき落ち着き、涙もとま
ったオレだったが、女の子になった事での大変さをつくづく身に染みて感じていた。
何より、タカシに対する今までの気持ちが最も整理しにくい事のひとつだった。

オレ??いったいどうなったんだろう?助け出された時、タカシがこの上なく
たのもしく見えたし、あの大きな逞しい身体の中で泣いていると、とっても大きな
ものに包まれているようで、安心だったのだ。
痴漢事件はともかく整理できたものの・・タカシへの感情の変化が整理できないま
まに校門へと向かっていったのだった。


7.学校

「オイ!何突っ立ってるんだよ。早くこいよ」

校門の前で、たたずんでいるオレに向かってタカシが言った。
何で学校に入らないのかって??そりゃー決まってるさ。恥ずかしいんだ。

「だってさぁー・・恥ずかしいよ。こんな格好だし・・」と、おれはしげしげ
と自分の女子制服姿を見ながら言った。

「何言ってんだよ。似合ってるよ。なんてったっても今のお前は、真美ちゃん
そのものだかんなぁ。誰が見てもマサミだって事はわかんないさ」

「でも・・でもぉ」とイヤイヤをするようにオレはためらったのだ。

タカシは強引だった。「いつまでもそんなトコにいるわけにゃいかねーだろ」と
オレの腕をとるなり、抱き抱えるようにしてオレを引っ張っていったのだ。

オレの心はまた千々に乱れていた。タカシに制服を「似合っているよ」と言われ
て、ちょっぴり嬉しかったこともそうだが、タカシが強引にオレの腕をとる事
によって、オレの胸・・そう真美ちゃんのオッパイが、彼の腕に当たるのだ。
それを意識すればするほど、オッパイの先・・がズキン!と来るのだ。

引きずられるように学校へと入っていく時、他の女子から冷たい視線が飛んで
いた。そりゃそうだ。タカシは女子には人気ものなのだ。それがまるで恋人同士
のように腕組んで歩いているのだから嫉妬されてもしかたない。
オレはイヤな予感がしながらもリードされるのがちょっぴり快くて、後ろから来
るもっとも強い嫉妬には気がつかなかった。そう・・由美子の視線にだ。

「じゃな、後で・・」とタカシに言われてオレはとまどった。

「何故?教室まで一緒だろ?」とオレは言う。そうすると、由美子がチャチャを
入れて来た。

「またぁーー、その言葉使い!!やめてよね。仮にも今は女の子なんだからっ。
それにあなたって、今は真美ちゃんなんだから、教室は別々でしょ。私と一緒
なのっ」

「あっ、いけね。そうか!」とオレは言った。由美子が小姑みたいに「またっ!!
こ・と・ば!!」と注意を促す。

「あ・・うん・・じゃない・・そうね。そうだったわ・・じゃあタカシ君また
後で・・」と、つかえつかえ言った。

「へっ??タカシ君??だって。お前にそういう呼び方されるとくすぐったいぜ。
でもさぁー真美ちゃんに言われているみたいで、なんかいいなぁー」
とタカシが言うと、オレは顔を真っ赤にして「バカ」と小声で言う。

うぇーーー、こっぱずかしいよぉ。こんなんで元に戻るまでもつのだろうか?
不安を抱きながら、オレは由美子と一緒に別な教室に向かっていった。
教室に入る前、由美子が突然振り向いて、オレの目を覗きこみ・・

「ちょっと、あなた、タカシに色目使わないでよね。ホモじゃあるまいし・・」
と切り出してきた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。オレがタカシに色目ぇ??そんなことないない。
絶対にない!だってオレは・・(由美子・・君が好き・・)」

オレは後の言葉がつげなかった。よくよく考えてみると、意識していたわけじゃ
ないにしろ、タカシに対する感情でとまどっているのは確かだし・・由美子の
事好きだったはずなのに・・今は何の感情も浮かんでこない。そう・・まるで
同性に対するように。

げげ、オレは・・ホモになっちゃったんか??暗澹たる気持ちで教室に入って
いった。
成績は真美ちゃんもオレも同じくらいのものだったから、言葉づかいさえ忘れな
ければ、オレは真美ちゃんでうまく通せた。
3時間目の体育の時、オレは、女子更衣室へと向かっていった。そう・・女子更衣
室。男性の時は、夢の楽園。今は堂々と覗けるのだ。

気分はウキウキ・・するはずだった。

確かに、女性の身体って、男性に比べて奇麗だし、次々と下着姿になる女子に対し
て気分は高揚していた。でも、今は、自分自身もそうなのだ。
回りがどんどん着替えるのに、オレは、制服を脱いで、下着姿でとまどっていた。

だってぇーー、ブルマーがポテンとおいてある。自分の(真美ちゃんの)ロッカー
にあったものだ。これをはくんだから赤面してしまう。
グズグズしているオレに後ろから突然声がかかる。

「ちょっと真美!!」

「だ、誰??」オレは振り向きざまに答えていた。後ろを見ると、何人かの女子。
その後ろに由美子がいる。

「あんたさぁー・・ほんとは・・まさみ君なんだってぇ?由美子から聞いちゃった。」
一番先頭にいた女の子が横柄に言った。

「だ、誰が・・オレ・・じゃないあたしは真美よ!」

あーーあ、いかにもバレバレの言葉・・。数人の女子は失笑している。
またオレに声かけた女の子が言った。

「ふーーん。信じられないけど・・本当なんだ。でもいい度胸してるわねぇ。だって
あんたって、中身は男なんでしょ。堂々と女子更衣室に入ってさぁー、その上
あたしたちのタカシに色目使ってるしぃー」

うっ、こいつらは、タカシの事で嫉妬してるのが本音だな・・と思いながらも
オレは反論できなかった。どーも真美ちゃんになってからますます気が弱く
なっちゃってる。

「そうね。本当に女の子かどうか、私達が調べてあげるわ。覗きしたバツよねぇ。
タカシに色目使ったバツ・・」

そういうと、女の子の集団は、オレに一歩・・ズイっと近づいてきた。

オレは後ずさりながらも・・「調べるって何を・・」とおそるおそる答える。

「ふふふ、ひんむいちゃうのよっ!・・それ!」
彼女の号令のようなこの言葉に、回りの数人の女の子がオレの手足を拘束する。
リーダーのように声をかけてきた女の子がオレに近づき、スリップを脱がせ
、ショーツとブラジャー丸出しにしていった。

「やめて、やめて」と黄色い声で抵抗するオレをまるであざ笑うかのように、
ブラジャーをはずし、ショーツを脱がせる。

生まれたまんまの素っ裸になったオレを、リーダーの女子が身体のラインにあわせる
ように撫で回した。

形の良い胸のあたりに手が来ると、双丘の膨らみを「むんず」と握った。

「いたっ、痛い!!」とオレは悲鳴をあげる。

「あらあら、男の子なのに、痛いのぉ?おかしいわねぇ。女の子ならわかるけどぉ。
言葉づかいが、なんか男の子だから、もう一度やってみようかしら」

な、なんて事を。

「わ、わかった・・じゃない。わかりました。あたしを許して。もう覗きません。
一人で着替えます。タカシにも色目使いませんから・・」

懇願するように、女子たちに言った。

「へぇー素直じゃない。やっぱり女の子かしらん?じゃあー優しくしてあげなくちゃ
ねぇ」
そう彼女は言うと、オレの胸を優しく撫でまわした。

「あっ・・あ」とオレは声をあげる。

ひぇーーーー!!か、感じちゃった。何で?こんな状況なのに。今の刺激で、乳首
がピン!と立っている。

「あははは、見て、見てよぉ、この子、感じちゃってるわよ。おっもしろーい。
もっとやってみようか?」

そう言うと、彼女は胸をもみしだき、ウェストから腰へと伸び、暗い茂みの渕へと
指先を伸ばしていく。本来、オレにあるはずのない裂け目かそこには存在する。
いまだに未知の部分。
彼女の指先は、その茂みの一番敏感な部分にするりと入り、真美ちゃんの・・今は
オレの感じやすいところをいじり回していった。

「あ、あん・・いや。あっ」と、声をあらげながら、ワタシは、その快感を望んで
いた。

「うふふ。こんなに感じちゃう男の子って・・いないわよねぇ」と意地悪く
リーダーの子が言う。

そこに由美子が割り込んで「ふーーん。まさみ君って・・結構淫乱なのね。あはは
笑っちゃうわ。男の子なのに、女の子にこんな事されて恥ずかしくないのっ?」

それを聞いてますます笑い声をあげる女の子たち・・。アタシにはもうどうでもよ
かった。
今、開放されれば、それでいい。

恥??何が恥?感じた事が?女だったらそういうものだよね。

次第に遠退く意識の中で、自分が男である意識が少しずつ小さくなっていくのを
感じていた。

やがて、気がすんだのか、彼女たちは立ち去り、後には下着を投げ付けられた
あたしがいた。

意識が元に戻り、屈辱に甘んじてしまった自分に情けなさを感じながらも、
ほとんど違和感なく、体操着のブルマーをつけている自分には気がつかなかった。

授業が終わり、昼休みになった。

あたしの教室にタカシが様子を見にきていた。由美子に「タカシにはチクるんじゃ
ないよ」と念をおされていたから、さっきの事は話しようがない。じゃないと
またいじめられるからだ。

「オイ、どうだ?様子は?」とカタシが聞いてきた。

「あ、うん。大丈夫よ。何とかやってる。」無意識にしなをつくってあたしは
答えた。

「おいおい、何だか??本当にまさみか??真美ちゃん??に戻ったのか?」

「えっ?どうして?あたしはまさみよ?」

「だってさぁー・・今朝と比べると、ぜんぜん違うよ。今朝は、まだ女の子の
フリしてるって感じだったのに、何だかそうしていると、本当の女の子だよ」

「だって・・今、あたし。女だモン」とあたしは言った。

「うっへえー。こりゃまいった。女性ホルモンが頭脳にまでまわったのか?
まあーいいや。元に戻るまではその方が自然だしな。ま、下校までしっかりや
れよ」こう言うとタカシは去っていった。

去ってほしくなかった。このままここにいて守ってほしい気持ちがどんどんと心
の底からわいている。
案の定、先程の女の子たちに、教室の見えないところに連れていかれたのだ。

「あんた、まだタカシにチョッカイかけるつもり?」と彼女たちは言う。

「だ、だって・・向こうから話しかけてきたものだモン」と抗弁するあたし。

「まあまあ、仕方ないわよ、そのくらいはね。今は女の子だけど、もう少し
すれば、男の子に戻るんだし、話しするくらいは、カンベンしたげるわ。でも
ね・・」由美子はこう言うと、あたしのスカートの中に手を入れて、ショーツの
上から、さっき感じたところに指先を這わせ言った。

「そのかわり、こういうところを利用しちゃう関係だけは・・分かってるわね?
おねーさんが許さないわよ」

「は、はい。わかってます。そんな事しません。だからいじめないで・・」
と、あたしは由美子に答えていた。

「うふふ。素直で可愛いわ。このまま妹にしちゃいたいくらい」こう言って由美子
はスカートから手を離した。

やがて終業のベルが鳴り、下校時刻になった。あたしと由美子は二人連れ立って
タカシの待っている校門へと向かっていったのだ。

たった一日だけなのに、あたしの意識は変わってしまった。だから女の子として暮
らす事に不安は感じなくなったけど・・このまま完全に女性化しちゃったあとで、元
に戻った時に、この意識も男の子に戻るのかしら?
今度はそんな不安が心をよぎったのである。

こうして、あたしの女生徒としての長い学園生活が始まったのだ。
                ~~~~

              とりあえず END

----------------------------------------------------------------------
        あとがき

初めて小説を書いてみました。尻切れトンボがほとんどで、まとまったモノは
今まで書いた事がありませんでした。

未熟な作品で申し訳ないっす。ハイ。(^^;)

ちょっと女性化に至るまでの導入部分が長すぎるきらいがありまして、どうしても
文章が長くなってしまいます。

続きが書けるようにはなっていますが、続きを書くかどうかは未定。
今はこれの3倍くらい長いものを書いています。最初は性転換モノだったのに
いつのまにか SF 小説になってしまいました(^^;)それも第1部だけで、これの
3倍の長さなので、公開できないかもしれない。公開する時は、自分のページ
かなぁ。何はともあれ、初投稿作品を読んでいただきまして有り難うございました。

            mew